第201回相続分の譲渡放送日:2022.03.03

  • 【事例】
    先日、兄夫婦と同居していた父が亡くなりました。
    相続人は兄、私、弟の3人です。
    長年父の世話をしてくれたことに感謝して、全ての財産を兄に譲りたいのですが弟が承知しません。
    兄に少しでも多く相続してもらうためにはどうしたらよいでしょうか?
  • 問題:相続放棄をしてしまうと、弟の取り分を増やすことにもなります。弟の取り分をそのままに、兄の取得分を増やすにはどうすればいい?
    ─ 遺産分割協議が長期化しそうな場合によく用いられる手段のひとつに、「相続分の譲渡」があります。遺産分割のトラブルに巻き込まれたくない、他の相続人と交流がない、取り敢えず現金が必要、など色々な事情がある相続人が、遺産分割の前に、自分の相続分を他の相続人に譲渡することです。
  • 第三者への譲渡も可能ですが、遺産分割協議の長期化を防ぐのが目的の場合が多いので、事態が複雑化する第三者への譲渡は、最近はあまり見られません。この方法だと、相談者の相続分がそのままお兄さんに譲られますから、お兄さんの取得分は、相談者の分と合わせた1/3+1/3=2/3になります。相続分を全て譲渡すると、譲渡した人は相続人としての地位を失い、遺産分割協議での発言権もありません。一部譲渡も可能です。
  • <そもそも相続分の譲渡とは何か>
    相続分の譲渡とは、自分の法定相続分を他人に譲り渡すことです。譲る相手は共同相続人でもそれ以外の第三者でもかまいません。もともと法定相続人であっても、相続分を譲渡するとその人は遺産相続権を失います。遺産分割協議に参加する必要がなくなるので、相続トラブルを避けるためには有効な手段といえます。譲渡の条件は有償でも無償でもかまいません。相続分の譲渡をするなら「遺産分割前」に行いましょう。遺産分割してしまったら、相続分譲渡できなくなるので注意してください。
  • 相続放棄と似ているような気がしますが違いを教えてください
  • <相続放棄との違い>
    相続放棄すると、その人ははじめから相続人でなかったことになるので、負債も相続しません。相続分譲渡の場合、譲渡した人にも負債の支払い義務が残ります。債権者が支払いを要求してきたら拒めないので注意しましょう。また、相続放棄の場合、「放棄者が存在しない」ものとしてその人の相続分が他の法定相続人に割り振られます。一方、相続分の譲渡の場合「譲渡の相手を相続人が自由に選べる」という違いがあります。
  • なるほど。どんな場合に相続分の譲渡を考えた方がいいのですか?
  • <相続分を譲渡すべきケース>
    1. ●遺産を相続したくない、関心がない
      相続分を譲渡すると、面倒な相続登記などの手続きをせずに済みます。
    2. ●相続トラブルに巻き込まれたくない
      相続分を譲渡すると、遺産分割協議に参加する必要がなくトラブルに巻き込まれる可能性がほぼなくなるでしょう。
    3. ●配偶者や孫など、自分以外に遺産相続させてあげたい人がいる
      遺産相続権を与えたい相手に相続分の譲渡をすれば、希望を叶えられます。
    4. ●相続人が多数で、遺産を引き継ぐ人を少人数に絞りたい
      他の共同相続人へ相続分の譲渡をすると、相続人を減らせて状況を整理できるでしょう。
    5. ●早期に相続権を現金化したい
      遺産分割前に有償で相続分を譲渡すれば、早期に現金が手元に入ってきます。
  • 特別な手続きは必要ですか?
  • <譲渡に必要な手続き>
    相続分の譲渡には特別な手続きは不要で、法律的には「口頭の合意」でも成立します。ただ、口頭では相続分の譲渡があった事実を証明できず、トラブルになる可能性が高まるでしょう。現実には書面を作成しておくべきといえます。
  • <必要書類>
    相続分譲渡証明書には、できれば実印で押印しておくべきです。特に不動産の登記をするなら、実印による押印が必須となるでしょう。印鑑登録証明書も添付してください。
  • なるほど。相続分の譲渡を行う際に気を付けた方がいいことはありますか?
  • <相続分の譲渡を行う際の注意点>
    • ・譲渡後も債務の支払い義務が残る
      相続分の譲渡をすると、その人は相続権を失います。ただし負債の支払い義務はなくなりません。相続債権者から支払い請求が来たら返済せざるを得ないので、注意しましょう。
    • ・相続分の取り戻しが行われる可能性がある
      相続人以外の人へ相続分を譲渡すると、他の相続人は1カ月以内であれば取り戻し請求ができます。自分の妻などに遺産相続権を与えたいと思って相続分を譲渡しても、相続人から取り戻し請求が行われたら希望を叶えられなくなるので、注意が必要です。
    • ・遺言がある場合の相続分の譲渡
      遺言がある場合、相続分の譲渡ができるケースとできないケースがあります。「~に〇分の〇、~に〇分の〇」など「相続分の指定」が行われている場合、指定された相続分を譲渡できます。一方「~に不動産を遺贈する、~にA銀行の預金を相続させる」など遺産を指定して遺贈された場合、相続分という概念がないので相続分の譲渡はできません。
    • ・税金がかかる
      相続分を譲渡すると、税金がかかる可能性があります。共同相続人以外の第三者へ相続分を無償で譲渡すると、譲受人に「贈与税」が課税されます。一方、有償で譲渡した場合には、相続人に「譲渡所得税」が発生する可能性があります。相続分を譲渡するときには、税金のシミュレーションも必須となるでしょう。
    • <相続放棄と比べたときの相続分の譲渡のメリットとは>
      相続放棄の場合、自分の希望する相手に相続分を与えられません。また相続人以外の第三者へ遺産相続権を与えることもできません。相続分の譲渡なら、親族だけではなく第三者に対しても相続分を譲渡できます。このことは、相続分の譲渡ならではのメリットといえるでしょう。
    • <まとめ 相続分の譲渡後も負債は引き継ぐことに注意>
      相続トラブルに巻き込まれない方法として、相続分の譲渡は有効です。ただ、負債を引き継いでしまうなどのデメリットもあるので、注意しましょう。相続問題で悩んだときには、専門家に相談すると、リスクを避けて安全に手続きを進められるでしょう。