第150回認知症と相続②放送日:2021.03.11

  • 先週の事例で紹介したように、認知症になってからでは相続対策は難しいです。
    では、事前に認知症への備えとしてできることは何でしょうか。

    認知症への対策として、今、非常に注目されているのが「家族信託」です。この家族信託は、後見制度の良い所だけを抽出した、とても使い勝手のよい仕組みです。

    どのような仕組みかというのをひと言でいうと、「財産の所有権のうち、管理する権利だけを信頼できる家族に移す」というものです。所有権には管理をする権利とお金をもらう権利があります。この2つの権利のうち、管理をする権利だけを移すのです。お金をもらう権利はそのままの所有者に残しておきます。そうすることによって、不動産の管理は信頼できる家族に任せて、家賃ですとか、売却代金はそのままの所有者が得る形になります。

    これまで不動産の管理をすべて引き継がせるには、所有権をまるごと移す、生前贈与という方法が主流でした。生前贈与では、所有権を丸ごと移すので、受益権も移すことになります。この場合には当然、多額の贈与税の負担が発生するのです。また、贈与税だけではなく、不動産取得税や登録免許税という別の税金もかかります。さらに贈与税の申告書の作成を税理士に依頼すれば、その税理士に支払う報酬も発生します。まとめると、不動産を生前贈与するとコストが非常に高くなってしまうのです。

    一方で、家族信託の場合にはどうかというと、まず、贈与税はかかりません。あくまで管理する権利だけを移すので、受益権はそのままです。この形の場合には贈与税は一切発生しません。また不動産取得税も非課税です。登録免許税はかかりますが、生前贈与の場合と比べるとその負担は5分の1です。生前贈与と比べると家族信託は非常にリーズナブルにできるのも、家族信託の人気が高まっている理由ですね。

    受益権を誰に相続させるかは、家族信託を始めるときに、あらかじめ決めることができます。たとえば、父から長男へ、不動産を管理する権利を家族信託によって移しておきます。父に相続が起きた後には、管理は長男が行い、家賃収入は母に帰属するような形にできるのです。この形は非常に安心感があるので、多くの人がこの形の家族信託にしています。