第132回偽物の遺言放送日:2020.11.05

  • 【質問】
    これは先日起きた出来事です。父親が亡くなり遺産分けをしようとしたところ、父親の遺言が見つかりました。中を見てみると、長男と次男に半分ずつ、私と弟には何もなし、という内容になっていたのです。
    不自然なほどに不公平な遺言です。私は「兄たちが遺言書を偽造したのではないか?」と考えました。そこで、筆跡鑑定などを行い、「筆跡も違うし、遺言は偽物。ちゃんと4分の1ずつの遺産を渡してほしい」と兄に訴えました。すると、兄たちは逆上して「偽物のはずがない。遺産は渡さない」と言い、別の筆跡鑑定をして、本物だと主張してきたのです。お互いに一歩も譲らず、結局家庭裁判所で遺産分割調停を行いました。長い時間と兄弟の縁を投げ打ってまで得たのは少しの遺産だけ。遺言書の真偽で揉めないためにはどうすべきだったのでしょうか。
  • 【回答】
    遺言があっても、それが偽物だと疑われたら、かえって相続トラブルの要因になります。遺言が偽物ではないかと疑われるのは、その遺言が自筆証書遺言で、どのような状況で作成されたかがわからないためです。遺言の真正が明らかにならない場合、自分に不利になっている相続人は、「遺言書が無効」と主張しますし、自分にとって有利な内容になっている相続人は「遺言書が有効」と主張するので、争いになります。

    この場合、遺産分割に関する争いではないので、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟という裁判手続きが必要です。そして、遺言が無効ということになれば、それを前提に遺産分割協議をしなければならないので、遺産トラブルが非常に長引きます。

    遺言の真偽で揉めないようにするためには、信頼できる遺言書を作る必要があります。では、信頼できる遺言書とは何でしょうか。

    それは、このラジオでもなんども登場している公正証書遺言です。公証役場で公正証書としての遺言書を作成してもらう方法ですが、公正証書遺言は、公証人が法律に従った適式な方法で作成するものなので、無効になることが非常に少ないです。また、きちんと身分確認をした上で作成するので、偽造の心配も要りません。

    遺言をするときには、手間がかかっても公正証書遺言の形をとるようにしましょう。いったんは自宅で自筆証書遺言を作成しても、その後その内容を公正証書にしておくことをおすすめします。