第112回不動産の相続~配偶者居住権~放送日:2020.06.18

  • 登場人物:夫、妻(質問者)、息子
    財産:自宅2000万円、預貯金3000万円
  • Q. 先日夫が亡くなりました、遺言書はありません。財産は自宅と預貯金のみですが、私は長年住んできた家に住み続けたいと考えています。ですが、私が自宅を相続し、預貯金を息子が相続すると、この先暮らしていけるか不安です。やはり、自宅は売却するしかないのでしょうか。
  • A. 相続において、残された財産は被相続人が所有していた自宅と預貯金だけ、ということはよくあるケースです。原則は、財産の合計額5,000万円を、配偶者と子の相続分(この場合、それぞれ2分の1)にしたがって2,500万円ずつ分けることになります。もし、配偶者が「慣れ親しんだ家に住み続けたいから」と自宅を相続することを希望すれば、両者の分け方は以下のようになります。

    配偶者:自宅2,000万円、預金500万円
     子 :預金2,500万円

    この分け方は公平なものの、配偶者にとっては不安が残るかもしれません。住む場所を確保できたとしても、受け取る預金は500万円だけで、今後の生活費が不足しそうだからです。そこで配偶者が、「自宅に加えて現金1,000万円くらいはほしい」と考えた場合はどうでしょうか。子が納得してくれればいいのですが、納得してくれない可能性もあります。
  • 上記のような問題は、新設された「配偶者居住権」を使うことで回避できる可能性があります。

    配偶者居住権とは、「配偶者が、相続開始時に被相続人と住んでいた相続財産である建物に、引き続き無償で一生住み続けられる」という制度です。遺産分割における選択肢の一つとして、被相続人の遺言などによって、配偶者にこの権利を取得させることができます。配偶者居住権は配偶者だけの権利なので、売却はできませんが、一般的な所有権と比べて評価額が低くなります。一方、配偶者以外の相続人は、その不動産の「負担付所有権」を相続するかたちになります。負担付所有権は、建物の耐用年数や築年数、法定利率、残された配偶者の平均余命などを考慮して決まります。

    例えば、今回の事例に当てはめると、2,000万円の自宅について、「負担付所有権」が1,000万円と評価されたら、「配偶者居住権」はその額を差し引いた1,000万円となり、子と配偶者でそれぞれ相続することになります。その後、残りの預金3,000万円を配偶者と子で協議して分けます。具体的には以下のとおりになります。

    配偶者:配偶者居住権1,000万円、預金1,500万円
     子 :負担付所有権1,000万円、預金1,500万円

    こうすることで、配偶者は自宅に住み続けることができ、預金の取り分も増えるわけです。子は負担付所有権とともに預金を取得したので、お互いに納得できる遺産分割が行われました。なお、配偶者居住権は、配偶者が亡くなった時に消滅します。