第107回生前贈与と遺留分放送日:2020.05.14

  • 登場人物:父(死亡)、母(死亡)、長女(質問者)、次女、長男
  • Q.
    亡くなった父には私(長女)と妹、弟の三人しか相続人がいませんが、妹が父の亡くなる半年前に父から1800万円の現金を贈与してもらっていて私と弟が相続できる財産が残っていません。
    私と弟は遺留分の主張ができるのですよね?
  • A.
    遺留分侵害額請求は遺留分権利者が、相続開始及び減殺すべき遺贈、贈与があったことを知った時から1年間行使しないと時効により行使できなくなります。また相続の開始及び減殺すべき遺贈、贈与に気づかなくても10年経過すると行使できなくなります。遺贈や贈与を受けた側も長期間なにも請求されていなかったのに急きょ請求されては困るため時効が存在します。

    遺留分侵害額請求の対象は遺言による遺贈に限られません。相続開始(被相続人が亡くなった日)前1年以内にされた贈与も遺留分請求の対象になります。また被相続人及び贈与を受けた者が遺留分を侵害している事実を知りながらした贈与は1年に限らず遺留分請求の対象になります。

    遺留分減殺請求の対象は、原則として相続開始前の1年間にした贈与ですので、質問の贈与はこの対象になります。民法1030条には、「贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。」と規定されています。そして、遺留分権利者は遺留分を保全するのに必要な限度で贈与の減殺を請求することができるのです(法1031条)。

    被相続人の、兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分減殺の請求権者です。
    相続人は、被相続人の子、配偶者、直系尊属、兄弟姉妹がなると民法に規定されています(民法887条、889条、890条)ので、質問者も弟さんも、遺留分権利者ということになります。

    遺留分を保全するのに必要な限度というのは、民法に定められています。兄弟姉妹以外の相続人は遺留分として被相続人の財産の3分の1又は2分の1に相当する額を受けられます(法1028条)。相続人の子であれば、直系尊属のみが相続人である場合以外の場合にあたりますので、被相続人の財産の2分の1に相当する額を遺留分として受けることができます。

    今回の場合は、被相続人の財産の2分の1について、相続人は3人ですので法定相続の割合3分の1に応じて遺留分の減殺請求が可能です(法1028条第2号、1044条)。具体的に計算すると、質問者と弟さんはそれぞれ妹さんに対して1800万円×2分の1×3分の1=300万円を遺留分の減殺請求ができます。

    法律的にいいますと、あなたと弟さんが妹さんに対して遺留分減殺請求をした場合には、被相続人から妹さんへの贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、妹さんが取得していた権利はこの限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するのです。

    ただ、遺留分減殺請求権について、注意を要する点は、いつまでも請求できる権利ではないという点です。

    「遺留分権利者が相続の開始及び贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする」(法1042条)と規定されているためです。遺留分の減殺請求をお考えでしたら、専門家に早めにご相談されることをお勧めします。