絹川代表 石川の文化人と語る
針谷 絹代さん 伝統工芸士 蒔絵/蒔絵アクセサリー
世界に一つだけの工芸品
蒔絵に込めたメッセージ
「伝統工芸の新しい表現」
絹川 ● 針谷さんは山中で蒔絵アクセサリーを作っていらっしゃると伺いました。そもそも蒔絵の世界に入るきっかけは何だったのでしょうか?
針谷 ● 昔から手に何か職をつけたいと考えていて、高校生の頃に自分が生まれ育った山中で蒔絵をやりたいと思ったことがきっかけです。高校卒業後は、地元で茶道具を作っている先生のところへ弟子入りして4年ほど棗の修行をしていました。
絹川 ● 蒔絵アクセサリーを作り始めたのはいつ頃ですか?
針谷 ● 15年ほど前です。器の制作もしようと思っていたのですが、蒔絵を描いた器がセットになるととても高価になるので、買われるお客さんも限られてくるのではないかと思いました。どうすれば一人でも多くの人に蒔絵を知って頂けるか色々考えているときに、アクセサリーなら女性が身につけるもなので興味を持ってくれるのではないかと思い蒔絵アクセサリーを始めました。

絹川 ● 石川県では蒔絵は有名ですが、県外に行かれると蒔絵を知らないという方も多いのではないですか?
針谷 ● 県外に行くと『何でこんなに高いの?』と驚かれる方も多いですね。あとは、輪島塗は高級品で山中塗りは安物というイメージを持っている方も多いので、山中の職人が作った品物を見て『山中にこんな良いものがあるんですか?』と逆に驚かれるお客さんもいます。
「一つひとつに想いを込めて」
絹川 ● 蒔絵の技法を教えて頂けますか?

針谷 ● 蒔絵は、まず素材に漆で絵を描いて金粉を蒔きます。その上から漆を塗り込み、漆の中に埋もれている状態の金が表面に出てくるまで研ぎ出していく技法です。研ぐと傷がつくので、その傷を磨く作業をします。この工程を何度も繰り返し仕上げていきます。
絹川 ● 非常に手間と時間をかけて精微な作品を作っておられるのですね。アクセサリーは全て針谷さんお一人で作っているのでしょうか?
針谷 ● アクセサリーは全て私一人で作っていますが、金具の組み立てや、お店に納品するときの荷造りなどは工房のスタッフに手伝ってもらっています。最近二人の息子もこの世界に入りまして、彼らにも簡単な作業を教えながら少し手伝ってもらっています。
絹川 ● 蒔絵のアクセサリーはどのような方が買われていきますか?
針谷 ● 蒔絵アクセサリーは派手ではないけどインパクトがあるので、宝石に飽きた方や個性的な方などが買いに来られます。年齢層は高い方が多いですが、親子二代で買っていってくださる方もいます。あとは、外国から観光に来られた方も買いに来られます。外国の観光客の方たちはとても興味を持って見てくれますね。もっと日本の若い人たちにも興味を持って欲しいので、最近では装飾石やビーズをあしらったチョーカーを作ったりもしています。


絹川 ● アクセサリーの素材はご自分で集めてこられるのでしょうか?
針谷 ● 素材は全て自分の足で集めてきます。蒔絵アクセサリーに使うのは、琥珀や蝶貝、水牛の角などです。
絹川 ● 素材の相性もあると思うので、素材同士を組み合わせながら蒔絵を施すのは難しいのではないですか?
針谷 ● 素材によって性質が全く違うので難しいですね。素材自体を加工するのではなく、素材を生かす方法で絵を描くにはどうすればいいか、いつも試行錯誤しています。また、そこが面白いのです。

絹川 ● 針谷さんが特に好きな素材を教えて下さい。
針谷 ● 琥珀が好きです。琥珀は数千万前の松ヤニの樹脂が固まったものです。悠久の時が溶け込んでいる琥珀に蒔絵を施すと、手のひらで新しい歴史が誕生するような気持ちになります。
絹川 ● 琥珀は光を通すと宝石のように輝きだして、神秘的な表情を見せてくれますよね。針谷さんの作品を見ると、古典的なものからモダンなものまで様々なデザインがありますね。良く描くモチーフなどはありますか?

針谷 ● ふくろうや太陽はよく描きます。パワーをもらえそうなモチーフなので、身につける人にも元気や幸運をあげたいという意味も込めています。長年棗を作っていたこともあり、古典的なデザインも好きですよ。お客さんの要望も感じながら、デザインのバリエーションを増やしていきたいと思っています。自分の作品を気に入って頂いて、身に付けてくれる方が華やかな気持ちになって頂けると嬉しいです。
「漆と蒔絵の美しさを日常に」
絹川 ● 針谷さんの作品はどんなところで販売されているのでしょうか?
針谷 ● 今は三越さんや梅田阪急さんなど、全国の百貨店で販売させて頂いています。14年前、東京ドームで行われていた『テーブルウェアコンテスト』というのに出展したところ、たまたま大賞をいただくことができ、それがきっかけで販売させて頂くようになりました。伝統工芸は高価なイメージがありますが、アクセサリーほどの大きさの商品であれば、買いやすい価格帯なのではないかと思います。普段のファッションに取り入れてもらえたら嬉しいですね。まだまだ販売ルートは開拓中なので、販売場所を提供して下さる方がいればどこへでも足を運んでいます。
絹川 ● 挑戦してみたい作品などはありますか?
針谷 ● 漆と相性の悪いと言われている陶磁器やガラスに蒔絵を描いてみたいと思っています。
絹川 ● 今後の抱負などありましたらお聞かせください。
針谷 ● 蒔絵は日本にしかない技法です。形が変わっても残していきたいと思います。自分が身に付けた技術で、伝統工芸品を現代の生活の中に多く取り入れてもらえる工夫をしていきたいと思っています。手に取る方には、漆の魅力や蒔絵の楽しさを身近に感じて頂きたいです。
絹川 ● これからは、針谷さんのような新しいジャンルに行かれた方が伝統工芸を新しい形で継承していくのだと思います。二人のお弟子さんたちにもぜひ頑張って頂きたいです。今後とも更なるご活躍を期待しております。


