絹川代表 石川の文化人と語る
林 利一さん 金沢仏壇 彫刻師
心現代と昔の流れに生きる
伝統細工の集合体
「仏壇に見える時代背景」
絹川 ● 林さんは42年間金沢仏壇の彫刻をされていると伺いました。この道に入るきっかけを教えて下さい
林 ● 私の家は代々金沢仏壇の彫刻をしており私で3代目になります。県立工業高等学校のデザイン科を卒業したあとこの道に入りました。はじめは京都の会社に就職するつもりでしたが、長男ということもあり、悩んだ末家業の仏壇彫刻を継ぐことにしたのです。今は四代目を継ぐ長男と一緒に仕事をしています。
絹川 ● 仏壇は身近にあるものですが、世代を超えて受け継がれていく素晴らしい伝統工芸品でもありますよね。
林 ● 仏壇は100〜150年経ったものでも分解して綺麗に洗って再生できるものもあります。昔に作られた仏壇の修理の依頼を受ける事がありますが、彫刻の部分がねずみに齧られて分からないとき、その仏壇が作られた時代の背景を考えて彫刻を施したりしています。
絹川 ● 長年の職人ならではの巧みな技術ですね。林さんのような職人の方たちが伝統工芸を守っているのだと感じます。

使われている道具の中には、林さんがご自分で作られた道具もある。大切に使われている様子が感じられた。

林さんの使っている彫刻刀。色々な刃の種類がある。いつでも使えるように、常に刃は綺麗に研がれていた。
「たたき道具と削り道具」
絹川 ● 金沢仏壇の特徴とは何でしょうか?
林 ● 金箔を施した彫刻を作る「箔彫」と、 白木地の地肌をそのまま見せる「木地彫」の二つの彫刻工程が特徴です。仏壇も宗派によって細かい箇所が違ったり、地方ごとの特色が出たりするので面白いですよ。
絹川 ● 素材は一枚の板だけで細かい所まで丁寧に彫ってあるのですね。
林 ● 一切、接着剤を使わずに一枚板で作っています。表と裏でデザインも違うので、頭の中で立体的になるようにイメージしてバランスを考えながら作業するのは難しいですね。
絹川 ● 木地彫に使う木は何を使っているのですか?
林 ● タブや柘植の木を使っています。タブの木は堅くて彫りやすく、柘植の木は堅く粘りがあり、細かい装飾をするのに最適です。木地彫は前指および障子の上腰、中腰、下腰に使います。
絹川 ● 作業場には色々な種類の道具がありますが、彫刻の工程によって鑿や彫刻刀は使い分けるのでしょうか?
林 ● 鑿や彫刻刀には大別してたたき道具と削り道具があり、工程によって数十種類を使い分けています。作業場にはたたき道具で30〜40本、削り道具で100本ほどあり、合計で130〜140本ほどあります。同じ種類のものでも2〜3本用意しているものもあります。市販のものを自分なりに加工して手になじむように使っています。




一枚の木の板から作り上げる彫刻。
使う場所によって裏面を彫る場合もあれば、彫らない場合もある。
絹川 ● 作品を作るときには図案は決まったものがあるのでしょうか?
林 ● 当店に代々伝わる図案を元にする場合もありますし、オリジナルの図案を描く場合もあります。しかし、図案とおりに作ってしまえば決まったものしかできません。荒叩きの段階で構想を考え、新しいアイディアを取り入れながらそのときの自分の感覚を表現するように作品を作っていきます。ですから、下絵は同じでも違う仕上がりのものができ、同じ作品は二つとできないのです。
「木の面白さを生かして」
絹川 ● 林さんは仏壇彫刻の他にも、色々な彫刻の作品を作っていらっしゃるそうですね。
林 ● 枯れてしまった木や、人から貰った木などを使って茶杓や彫刻作品を作っています。楽しんで作品を作っています。
絹川 ● 彫刻作品は何の木を使っているのですか?
林 絹川 ● 欅の木、タブ、樟の木などです。友人の新築祝いにと欅の木で作品を作ったときには、とても堅くてだいぶ手こずりました。
絹川 ● 図案の構図を決めるのは大変難しいのではないかと思います。
林 ● 構図を決めるのは難しいですね。何枚も同じ絵を描き、その中から一番いいものを選びます。横山大観の空間の処理の仕方は素晴らしいですね。もっと構図を勉強したいと思っているので、いつか横山大観の墨絵を実際に見てきたいと思っています。
絹川 ● 普通ではお目にかかれないような珍しい茶杓もたくさんありますね。大変興味深いです。

「竹林の七賢」
中国の伝説「竹林の七賢」がモチーフ。林さんのオリジナルの図案の作品。

西茶屋街の知り合いのお店で作品を展示したときのもの。珍しい茶杓がずらりと並んで、思わず目を引くものばかり。
林 ● 桜、花梨、栗、紅葉、棗など、15〜20種類の木を使って作っています。仏壇彫刻のときもそうですが、木の面白さを最大限に生かせるよう試行錯誤しながら作っています。
絹川 ● 素材が命ですからね。木の持っている特性をどのように上手く使うかはとても難しいことだと思いますが、そのぶんやりがいもあるのだと思います。
林 ● 物づくりの苦しみを楽しさに変えることが楽しいのです。もう少し良くできないかな?と思いながら毎日彫刻と向き合っています。彫刻が楽しいと思うようになったのは最近のことです。この世界に入ってから10年ほどは仕事が忙しく、自分の時間が持てませんでした。今は心にも少し余裕ができ、色々なことに挑戦したいと思っています。70歳までには自分が納得できる作品ができればなと思います。
絹川 ● 最後になりましたが、林さんの今後の抱負などございましたらお聞かせ下さい。

「竹林の七賢」
中国の伝説「竹林の七賢」がモチーフ。林さんのオリジナルの図案の作品。




西茶屋街の知り合いのお店で作品を展示したときのもの。珍しい茶杓がずらりと並んで、思わず目を引くものばかり。
右下写真 柿の葉をモチーフとした茶さじ。
林 ● 昔に作られた仏壇で良い仕事が施されたもの見ると、自分の励みにもなります。私も常に良いものを目指していかないといけないと感じます。今後も自分の腕を磨きつつ、代々続いている仕事を絶やさないよう後世にも伝えていきたいです。
絹川 ● 金沢仏壇の品位を保ちつつ伝統がずっと続いていってほしいものです。また、林さんらしい遊び心ある作品も作り続けて欲しいと思います。4代目にもぜひ頑張って頂きたいですね。今後ともお二人のご活躍をご祈念しております。



