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絹川グループ
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絹川代表 石川の文化人と語る

住駒 幸英さん 重要無形文化財 能楽師

聞き手●絹川グループ代表取締役社長 絹川善信

手綱を扱うような紐捌きを

−生きた伝統の楽器「鼓(つづみ)」−

「一体感を感じる舞台を」

絹川 ● 住駒さんは長年能楽の小鼓をされておられますが、この世界に入るきっかけは何だったのでしょうか?

住駒 ● 私の祖母が、維新後に能楽を興した佐野家からお嫁に来まして、その関係で代々小鼓の奏者をしています。 私も6歳から小鼓の稽古を始めました。今は長男が4代目として一緒に頑張っております。

絹川 ● 住駒さんは、金沢駅の鼓門が完成してから一番最初に鼓門の中で演奏されたそうですね。

住駒 ● 歴史に残る最初の一打なので緊張しました。本番前日に現場へ行き、舞台作りを見たり、 自分がどんなところで演奏するのか周りの環境を調べました。

絹川 ● 舞台で全国に行かれることも多いと思います。

住駒 ● 昔は名古屋や大阪にも行っていました。海外で公演したこともあります。今は月に3回ほど東京の舞台に行っており、金沢では毎月定例の舞台を勤めています。

絹川 ● 海外で公演されたときのお客さんの反応はいかがでしたか?また、印象に残っている出来事などあればお聞かせ下さい。

住駒 ● ブラジルは国民性でしょうが、演奏者と一緒に2000人くらいの観衆が一体となりロックコンサートのような感じでした。 エジプトのスフィンクス前での薪能では、鼓の音に協調するようにラクダが鳴きはじめたのに驚きました。

絹川 ● 小鼓の流儀を教えて下さい。

住駒 ● 流儀は幸流・幸清流・大倉流・観世流の4つがあります。私のところは幸流といい、一番大きい流儀です。 北陸は昔から幸流が主流です。金沢だけでなく福井や高岡にも能楽堂があり、幸流で統一されています。

絹川 ● 能楽の舞台は何人で演奏するのでしょう?

住駒 ● 能楽の場合は4人です。太鼓、大鼓、小鼓、笛をそれぞれ一人で演奏します。能楽師はお互いの間合いを体で感じて演奏するので、 自分のパートはもちろん、それ以外の楽器の音符などもすべて頭に入れて演奏します。

絹川 ● 慣れるまでには相当年月がかかりますね。一人が間違うとテンポがずれてきたり、本番になってみないと分 からない難しさもありますね。

住駒 ● 「難しさもありますが、何十回に一回ほど、自分自身、共演者共々、ピタッと息が合わさるときがあるのです。 舞台にいる者が充分力を出し切り、お客さんと一体感を感じる瞬間が一番の喜びですね。お客さんには能のストーリーを理解して観ていただけると嬉しいです。 一度だけでなく、二度三と継続的に鑑賞してその折々の変化を感じて欲しいです。

絹川 ● 能楽の曲目はどれほどあるものなのですか?

住駒 ● 210曲ほどあります。そのなかでポピュラーなのは150曲ほどです。1曲は平均1時間20分くらいになります。

絹川 ● それをすべて覚えるというのは大変難しいですね。

住駒 ● こればかりは体で覚えるしかありません。私も、小さい頃から音が体にしみ込んでいるからできることだと思います。それでも忘れてしまうこともあるので、日頃のおさらいは欠かせません。

絹川 ● 小鼓にも楽譜はあるのですか?

住駒 ● 楽譜はあります。能楽は全部8拍子で、そこに歌と音符をのせていきます。音符には記号を使い、記号を見て音を打つ感じです。 音には「チ、タ、プ、ポ」という4つの音があります。他にも、ゆるむ(遅くする)、進む(早くする)、こころ(感じを込めて静かにする)など色んな表現があります。 昔の楽譜では分かりにくい人も多いので、最近では新しい楽譜もできています。

小鼓の楽譜

小鼓は分解して保管し、演奏するときに調紐で胴と皮を結んで使う

「受け継がれていく道具」

絹川 ● 小鼓の皮は何でできているのですか?

住駒 ● 馬の皮です。外国の馬は皮が硬いので、日本の馬を使います。できたばかりの皮は真っ白ですが、何十年、何百年と打ち込むと飴色になっていきます。

絹川 ● 動物の皮はとても繊細で、湿気等に左右されやすいですよね。演奏するときにも苦労されるのではないでしょうか?

住駒 ● 今は空調があるので、気温、湿気の変化が激しく非常に気を使います。金沢のように慣れている場所はいいですが、初めて行く場所ではとても苦労します。 演奏中は、皮に息をかけたり、裏皮に張ってある小さな和紙に唾をつけたりして湿度を保たせるなど微調整をしています。

絹川 ● 邦楽の楽器は非常にお天気屋ですから、その日になってみないとどんな音が出るか分からないですね。

住駒 ● 何かと手はかかりますが、馬を調教するように、小鼓を自分の身体の一部になるよう自由にコントロールできればと思っています。

絹川 ● 小鼓は調紐の縛り方に特徴がありそうですね。

住駒 ● 縛るときに調紐の強さを均等にするのが難しいです。小鼓は指で調紐をしめたり緩めたりして音調をかえていきます。しめると高い音が、ゆるむと低い音がでます。

絹川 ● 太鼓の場合は音の強弱だけですが、高音や低音があるところ、音をかえれるところが小鼓の特徴なのですね。胴の蒔絵も素晴らしいですね。

住駒 ● 蒔絵は戦国武将が趣味で始めた装飾で、お化粧みたいなものです。昔はカラスドウという真っ黒な胴を使っていました。

絹川 ● 胴の材料は何ですか?

住駒 ● 桜の木を使っています。一見厚いように見えますが実は薄いのです。胴は旋盤でくり抜くのではなくて、職人が鉋で少しずつ削って穴をあけていきます。鼓に銘をつけないかわりに、鉋の使い方で誰の作品か分かるようになっています。

絹川 ● 最近は伝統的な道具を作る職人も少なくなってきましたね。

住駒 ● そうですね。舞い手や演奏者は育てても、肝心の作り手を養成できるところがなかなかありません。能楽を継承する人や観る方もだんだん少なくなってきました。

絹川 ● 本当に寂しいことですよね。自然のなかで伝統文化を継承していくことが一番理想的なかたちだとは思いますが、今の時代では難しいです。現在、住駒さんは能楽師として活躍する傍ら、東京の国立能楽堂でプロの養成にも力を入れているそうですね。

住駒 ● 国立能楽堂では十何年間ほど講師をしており、一期が6年間で、3人のプロを育てています。一人前になるように指導しても、彼らが生活できるのか心配です。テレビや機関誌のプログラムに生徒の氏名があるとホッとしますね。道具を打ち込んで道具を育てて、人も育てないといけないのは大変ですが、とてもやりがいのある仕事だと思っています。

「胴の外側には美しい蒔絵がほどこされている」


「胴は職人が少しずつ木を削り穴をあけていく。 200年近く打ち込んだ皮は美しい飴色をしている。道具は打ち込んでいくとまろやかな音になる」

「心身を共に」

絹川 ● 住駒さんが後世に望むこと、伝えたいことは何でしょうか?

住駒 ● 後世には600年の伝統を正確に伝えていきたいです。また、時折他の分野との共演、コラボレーションにも挑戦して欲しいと思います。

絹川 ● 最後になりましたが、今後の抱負などありましたらお聞かせ下さい。

住駒 ● 今後は舞台公演の数を減らし、心身共余力を備え、内容の充実した公演をしていきたいと思っています。

絹川 ● 住駒さんのように、長年に渡り伝統芸能に貢献している方はとても貴重な存在だと思います。これからも、素晴らしい舞台を期待しております。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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