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絹川代表 石川の文化人と語る

石崎 久信さん   野鍛冶職人 

聞き手●絹川グループ代表取締役社長 絹川善信

素朴な一品に確かな技術

−使いやすさの原点は心のこもった物づくり−

「日本で数少ない鍛冶屋」

絹川 ● 石崎さんは、農業を営むかたわら、今ではめずらしい野鍛冶(農機具や生活に関するさまざまな鉄器を作る鍛冶屋)をされていると伺いました。この世界に入るきっかけは何だったのでしょうか?

石崎 ● 父が野鍛冶を始めて、私が2代目を継ぎました。野鍛冶をはじめる前は、名古屋で六年間出稼ぎの仕事をしていたんです。しかし、自分が実家を離れている間に、娘を亡くしてしまい、子供の死に目にも合えない仕事は辞めようと思って、富来へ帰ってきました。それから、父の手伝いをしながら本格的に鍛冶を勉強するようになりました。

絹川 ● 昔はどこの町にも野鍛冶職人がいたものですよね。

石崎 ● 農作業の機械が主流になってくると、野鍛冶も段々姿を消していきましたね。昔はこの町に十二、三軒ほどあった野鍛冶も、今ではうちの一軒だけです。

絹川 ● 農機具を使う方も少なくなってきたのではないでしょうか?

石崎 ● 昔と比べると修理の注文は少なくなりました。しかし、農機具は畑仕事などに欠かせないものですから、刃を変えながら、同じ鍬を長く使っている方もたくさんいらっしゃいます。最近では、県外からからわざわざ修理品を送ってこられるお客さんも増えました。

絹川 ● 農機具を大切に使っている方たちにとって、石崎さんのような職人さんがいらっしゃるのは本当にありがたいことだと思います。量販店では、刃が壊れたからといって修理はしてくれませんものね。

石崎 ● 修理をするときは、使う人が一番使いやすくなるように考えます。身長が高い人なら柄を長くしたり、その人の使い方によって柄と刃の角度を変えたりします。お客さんから『あんたのところので直してもらった鍬は切れ味がいい。また修理を頼むわ』と言われたときはとても嬉しいです。

絹川 ● 使う人のことを考えて、その人だけの農具を作れるところが、出来合いのものにない手作りの良さですよね。

「土によって異なる農具」

石崎 ● お客さんの要望に合ったものを作って、満足して頂けることが何より嬉しいです。

絹川 ● 鉄を打つ温度や、鍛錬の回数は決まっているのですか?

石崎 ● 鋼の材質によって違うので、特に決まっていません。温度は色を見れば大体分かりますし、鍛錬は叩いたときの感触で、自分が『これでいい』と思うまで打ち続けます。

絹川 ● 五十年の経験が成せる職人技ですね。鍛冶の工程で一番難しいところはどこでしょうか?

石崎 ● 焼き入れ(鋼の硬度を高めるために高温に加熱した鉄を、水や油などに入れて急激に冷却する方法)が一番難しいです。鋼には色々な種類があり、鋼の材質にあった焼き入れをしないと、刃がすぐにとれてしまいます。はじめて使う鋼は、使いこなすために、自分で一度試して、どんお客さんに適しているか考えます。鋼のできしだいで、品物の良し悪しが決まるので、見極めが肝心です。

絹川 ● 鍛冶屋にとって鋼は命なのですね。鍬には色んな種類があるのですか?

石崎 ● 土が違えば、鍬の種類も様々です。その土地に合った鍬を使うので、柄の長さや刃の形、材質も違います。用途によっても鍬が違います。例えば、苗を植えるときの鍬は、土を掘りながら石をよけれるように、刃の角が丸くなっています。

「さきがけ」欠けたり、薄くなって
しまった鍬の刃を取りかえる作業

炭とコークスを使い、火の通りを良くする

鉄の温度は色を見て判断する

長年の経験と感覚で、
粘りのある鋼を鍛えていく


絹川 ● それは面白いですね。お客さんから変わった注文を受けたことはありますか?

石崎 ● 輪島の人から、『どれだけお金がかかってもいいから、鉈を作って欲しい。土佐や越前でも作らせたけど、刃が欠けてしまった』と頼まれたことがあります。刃が一尺半ほどある、変わった鉈でした。私も作ったことがないものだったので、挑戦してみようと思い5日間かけて作りました。実際にどんな風に使われているか見たことはありませんが、とても興味があるので一度見てみたいです。他には、祭りに使う薙刀を注文されたこともありました。

絹川 ● 農機具だけでなく、いろんなものを作っているのですね。

石崎 ● 漁に使う道具や、包丁なども作っています。刀鍛冶とは違って、野鍛冶はいろんなものが作れます。面白い注文が入ってきたり、作ったことがないものを作るのも、仕事の醍醐味です。

「使ってくれる人に感謝して」

絹川 ● 仕事の信条を教えて下さい。

石崎 ● 父が考えたものですが、『技術は命。良品は力。誠意は道』という言葉を肝に銘じています。注文を頂いた以上、きちんと修理して返すことが、鍛冶屋の責任だと思っています。自分がいい仕事をして、お客さんにも喜んで頂ける信頼を大切にしていきたいです。

絹川 ● 仕事をしていて楽しいと思うのはどんなときですか?

石崎 ● 注文された品物ができあがったあと、『これがお客さんのところへ行って、どんな風に使われるのかな?』と思うと楽しいです。

絹川 ● 仕事の喜びはどこに感じますか?

石崎 ● お客さんからの『使いやすい』の一言です。自分が作ったものをすり減るまで使ってもらった道具を見ると、鍛冶屋冥利につきます。

絹川 ● 最後になりましたが、今後の抱負などありましたら、教えて下さい。

石崎 ● お客さんの手に合ったものを作りたい、長く使えるいいものを作りたい、という想いで、五十年間仕事をしてきました。私も八十歳になり、あと何年続けられるか分かりませんが、自分を頼って来てくれるお客さんのために、体が動くかぎり頑張っていきたいと思っています。

自宅の敷地内にある工場

すり減った柄から、使っている人の愛情が感じとれる

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