絹川代表 石川の文化人と語る
福嶋 十一さん 三味線棹師
日本の情景を奏でる匠
−究極の合理性から素朴が生まれる−
「伝統の材料が息づく楽器」
絹川 ● 福嶋さんは、明治初期から続く三味線専門店として、代々三味線を作られているそうですね。今では、福嶋さんのように三味線を作っている職人さんは減ってきているのではないでしょうか?
福嶋 ● 三味線作りは私で4代目になります。県内で三味線を扱っているお店は5、6件ほどありますが、棹の制作から皮張り、組立、メンテナンスまでを一貫して行っている店は、北陸では私のところだけになります。
絹川 ● 三味線の歴史はどのくらいになるのですか?
福嶋 ● 450年ほどです。三味線は琉球の「三線(さんしん)」という楽器が元になっており、室町時代に琉球から本土へ伝わったと言われています。それから、琵琶の奏者や職人が多くの改良を加えて、安土桃山時代に現在の三味線の原型ができたそうです。
絹川 ● 三線はニシキ蛇の大きな皮を使っていますが、三味線は猫や犬の皮を使っていますよね。何故、犬や猫の皮を使うようになったのでしょうか?
福嶋 ● 本土には大きい蛇がいないので、蛇の皮に変わるものとして、猫や犬の皮を使い出しのではないかと言われています。おそらく、馬や牛など色んな動物の皮を試していたと思うのですが、小さい動物のほうが皮も薄く、デリケートでいい音が出たのでしょう。
絹川 ● 昔と違い、今は皮を仕入れるのは難しそうですね。
福嶋 ● 皮は豊富にはありませんが、不自由はしていません。ただ、コストはかなり高いです。皮の95%以上は台湾や中国、香港などからの輸入になり、専門で扱っている皮屋さんで仕入れます。三味線は日本固有の伝統楽器ですが、原材料のほとんどは外国のものです。外国の資源が今の日本芸能を支えている状況です。
絹川 ● 材料はどんなものを取り寄せているのですか?
福嶋 ● 三味線の棹に使っているのは紅木という木で、インドから仕入れています。胴に使っているのは花林という大変大きな木で、主にタイで産出されます。撥などに使う象牙はアフリカからです。国内でまかなっているのは、三味線の糸に使う絹糸だけになります。
絹川 ● 紅木が棹作りに優れている点や、特徴はどこでしょうか?
福嶋 ● 棹に使う木は紅木の他に紫檀や花林などがありますが、紅木は最も音色が良く、棹作りに必要な要素をいくつも持っています。紅木は他の木と比べて硬質で、狂いが出ません。とても綺麗な木目を持っており、美しい模様が多く浮き出るものほど高級品とされています。作り立ては紅色をしていますが、時間が経つと艶のある黒色になるのが特徴です。
絹川 ● 撥に使う象牙も高級品ですよね。撥にも色々な大きさがありますが、何故でしょうか?
福嶋 ● 撥には一番高価な象牙を使っています。撥に使える象牙は、全体の20%ほどらしく、数も多く造れるものではありません。大きさが違うのは、三味線によって使う撥が違うからです。使う人の手の大きさに合わせて削ったりもします。
絹川 ● 絹糸はどのように加工して使われているのですか?
福嶋 ● 絹糸は撚糸(糸を1本または2本以上そろえてねじること)をして、ウコンで黄色に着色して使っています。糸の太さも三味線に合わせて何十種類かありますよ。

三味線の材料の紅木の原木。インドのマドラス地方で取れる非常に硬い美しい木です。木が暴れる可能性があるので、最低でも10年は寝かせます。

原木の木取りをしたところです。一本だった原木を3つのパーツに分けました。

三味線の棹の接続部分に金を入れ、溝を掘ったところです。高級な三味線にはこのような装飾をします。金の入った三味線のことを「金ボソ三味線」といったりします。
「理にかなう究極の形」
絹川 ● 三味線は糸の張り方も変わっていますよね。
福嶋 ● 三味線は糸が切れることを前提に作られており、糸が切れてもすぐに張替えができる作りになっています。糸は素早く替えれるように、「音緒」という紐に輪っかを作って巻けば簡単に繋げる造りになっています。三味線の大きな特徴の一つは、演奏が途切れないように曲を聞きながら変調していくところです。糸が三本しかないので、単調にならないように調弦を変えて曲を続行します。臨機応変さが必要なので、糸巻きの摩擦だけで調弦できる作りが便利なのです。
絹川 ● 三味線の皮はどのようにして貼っているのですか?
福嶋 ● 皮はもち糊で貼っています。三味線の皮は破れやすく、頻繁に修理をするので、一回一回釘で打ったり接着剤が剥がれないようでは困ります。もち糊は木と皮の相性がとても良く、接着能力があるうえに、水につけて雑巾で拭けば糊は取れるので土台も痛めません。

「糸巻き」 この3つの棒で音を合わせます。(調弦)。三味線の種類によって太さも違い、高級三味線には象牙を使用します。
絹川 ● 糸の張り方や皮の修理の仕方といい、三味線は作り手や使う人のことを考えた合理的な設計になっているのですね。三味線にもいくつか種類があるのでしょうか?
福嶋 ● 三味線は音楽のジャンルによって使う三味線が違います。三味線の種類は、大きく分けて「太棹」「中棹」「細棹」の三種類になります。色んな弾き方が出来たほうが便利だと言うことで、ジャンル別の三味線が作られたようです。

「音緒」 胴の一番下に付いている組み紐のようなもの。これに3本の糸を結び弦を張ります。音緒は糸と同じ絹で作られています。
絹川 ● 三味線は一つの棹を三つに分解して組み立てることができますが、棹の中はどのような構造になっているのでしょうか?
福嶋 ● 三味線は「上棹」「中棹」「下棹」と三つに分かれ「三つ折れ」という構造になり、木が継ぎ手の溝と臍で繋がっています。溝は相手方の木と凸凹になって、ぴったり合わさるようになっています。
絹川 ● 非常に緻密な仕事ができなければ、一度分解したものを狂いもなく組み立てることは不可能ですね。分解するというのはとてもユニークな発想ですが、どのような理由があったのでしょうか?
福嶋 ● 多分ですが、コンパクトにして持ち運びをしやすくしたというのと、木を切ることによって棹の曲がりを防ぐことが目的だったのではないかと思います。また、部品は分解できるので、金沢にいても日本中のお客さんのカバーができ、修理が必要なパーツだけ送って頂くこともできます。全てのお客さんに迷惑をかけないできちんと修理できるのはありがたいことです。
「音色が弾き手と巡り会わせる」
絹川 ● 三味線は、単純な構造の楽器ですが演奏するにはとても難しい楽器だと思います。 福嶋さんが感じる三味線の魅力や、作り手としての喜びとは何でしょうか?
福嶋 ● 三味線はとてもデリケートな楽器です。音色の変動が激しく、湿度に非常に左右されますが、日本ならではの繊細で綺麗な音色が一番の魅力だと感じます。三味線は、弾き手の要望に合わせ、完成したときの音色をイメージしながら作ります。自分なりにいい仕事ができ、買ってくれた方が「いい音だった」と喜んでくれたときは嬉しいですね。
絹川 ● 今は福嶋さんの跡を継ぐ5代目がいらっしゃると伺いました。
福嶋 ● ありがたいことです。私は自分の代で店を閉める覚悟をしていましたが、嫁婿がこの仕事を継ぎたいと言ってくれまして、今は5代目として頑張っています。息子もこの仕事を始めて5年になるので、今年一杯で免許皆伝にしようと思っています。

「花林の原木」 胴用。皮目に近いほど綺麗な木目が出ます。4枚の胴木を合わせて一つの胴ができます。外側の皮で作られた胴は高級品になります。

胴」 開口部の両面に皮を張ります。撥の当たる部分には、撥皮という半月状の形をした皮を張ります。

「キセン」 湿り気を与え、少しづつ伸ばしながら張っていきます。皮張りで三味線の響きが変わってくるので、重要なポイントです。破れる寸前まで張っていきます。
絹川 ● 伝統工芸をやっている方にとって、後継者がいないことが悩みになっていますが、このように後継ぎの方がいるのは本当に嬉しいことですね。福嶋さんの今後の抱負などありましたら教えてください。
福嶋 ● 私もも世間で言う定年の歳になりましたので、これからは息子にいいバトンタッチをして、自分はサポートするほうに回りたいと思います。今は昔と比べて時間と心にもっと余裕ができるようになり、自分の作りたい三味線も作れるようになりました。製品が完成して、何年か置いておけば、自分が「この三味線はこんな人に使ってもらえたらいいな」と思っている人に巡り合えるかもしれないと楽しみにしています。

「猫皮(よつ)」

「犬皮(けんぴ)」

猫皮で作った三味線(表)非常に高価ですが、音はやはり本物です。
絹川 ● それは素敵な楽しみですね。5代目にもぜひ頑張って頂きたいです。今後とも、お二人のご活躍をご祈念しております。本日はお忙しい中ありがとうございました。
「三味線の福嶋」
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