絹川代表 石川の文化人と語る
坂本 市郎さん 陶芸家 珠洲焼
心に響く自分だけの陶器
-素朴で力強い珠洲焼きの魅力を多くの人に伝えたい-
「土との対話」
絹川 ● 坂本さんは珠洲焼の道に入ってまだ新しいと伺いましが、この道に入るきっかは何だったのでしょう?
坂本 ● 私が30歳の頃、父が瓦屋を廃業して珠洲焼を独立開業し、窯焚きの手伝いに帰って来いと言われたことがきっかけでした。
それまで、陶芸には特別な思いもなく、大学卒業後は東京でサラリーマンをしていました。丁度、東京の生活にもくたびれ、どうしようかと思っているときに、焼き物ならやりがいがあ
りそうだと思い、父の手伝いをしながら見よう見まねで珠洲焼を始めたのです。
絹川 ● 実際、珠洲焼を始めてみていかがでしたか?
坂本 ● 面白さも大変さも両方あります。面白いことは、何もないところから自分の思うものを造り出すことです。大変なのは、珠洲焼の原料が鉄分を多く含み、火の耐性が弱い粘土のため、粘土に含まれる鉄分が高温になるとすぐ溶けてしまい、形が崩れやすいところです。焼き物にするには難しい土で、窯の中で作品が割れてしまうことも多いです。
絹川 ● それだけもろい土だと、瓶(かめ)のような大きな作品を作るより、薄くて繊細なものを作るときは苦労しそうですね。
坂本 ● そうですね。しかし、もろい土なだけに、今はできる限り薄く作るように意識しています。薄ければいいというものではないですが、土と相談しながら技術と粘土の限界に挑んでみたいのです。

「花入」

「面取花入」
「鉄と灰の融合」
絹川 ● 珠洲焼の素朴さは、珠洲の土地柄と通じるところがあるように思います。
坂本 ● 珠洲焼には珠洲の風土のように、一見無愛想だけど、付き合いが深くなればなるほど温かく感じる魅力があります。珠洲焼は黒い焼き物なので、味気なく見えますが、使いこんでいくと艶が出て味わいが増します。そんなところが好きですね。
絹川 ● 珠洲のほっこりした温かい人柄は焼き物にも反映されていますね。珠洲焼は、鉄分を多く含んだ土が熱を加えることによって溶け、鉄分が炭素と結合して黒い地肌になるのが特徴ですよね。そして、焚きあげた薪の灰がかかるところにわびさびが出てくるところが、珠洲焼の何とも言えない魅力になっていると思います。一言で黒色と言っても様々な色がありますが、どのようにして焼き上げているのでしょうか?
坂本 ● 珠洲焼では、「くすべ焼き」と言って、最後に窯の中にドサッと薪を詰め、密閉していぶす工程があります。そのときに、灰がかかりやすいところと、かかりにくいところ、窯の中で温度が高くなるところと、低くなるところの温度差を考えて窯詰めをします。窯詰めをするときは、火の通りを考えながら、窯の中の場所で色合いを決めていきます。それで、同じ窯の中でも一つ一つ表情のある作品ができるんです。一つの窯の中で、まずまず満足のいく出来栄えの物は、半分あればいいほうです。中には焼き色が足りなかったりするものもあります。
絹川 ● そこが珠洲焼きの難しさですね。よく見ると、黒色の中に茶色やグレーなど、様々な色が混ざっていますね。銀色も入っているように見えます。
坂本 ● 窯の中で薪の灰が作品に付着して、それが高温になって溶けたものを「自然釉」と言います。自然釉が器に付着すると、それが銀色に見えることもあります。一般的に「珠洲焼=黒い」というイメージがあると思いますが、決して黒一色ではありません。釉薬をいっさい使わない焼成なので、自然釉ならではの魅力的な色合いが出てきます。それも珠洲焼の面白いところです。
絹川 ● 珠洲焼は温度管理が難しそうですが、火の調節は何段階かに分けているのでしょうか?

くすべ焼き:窯の口をレンガで塞ぎ、酸素が入ってこないように密閉する。これによって、珠洲焼らしい黒色が生まれる

窯詰め:窯の中に棚を組んで火の通りを考えながら品物を詰めていく
坂本 ● 段階を変えることはありません。温度は1200度くらいまで上げて、最後に薪をドサッと詰め込んで密閉してくすべます。それから一週 間ほどかけて温度を下げていきます。火は石油バーナーを使って、窯の温度を900度まで上げてから、薪を入れて燃やしていきます。
絹川 ● 火入れから窯出しまでの時間はどのくらいですか?
坂本 ● 窯焚きは、50時間と少しです。薪を入れてからは一週間なので、火入れから数えると窯出しまでは10日間くらいかかります。
絹川 ● それは大変時間がかかりますね。途中で焼き物がどんな様子になっているか見たくなりませんか?
坂本 ● 2、3日して温度が少し下がった頃に、レンガを一本抜いてちょっと覗くことはありますが、窯から出てくるまでは我慢ですね(笑)

ビアカップ:表面に微細な孔が無数にある珠洲焼。そのため、ビールを注ぐと細かな泡がたち、味が引き立つ。これで呑むビールは格別に美味しい


面取り花入:美しい色合いと情感をもった珠洲焼。シャープな線が魅力的な作品
「滲み出る人間性を求めて」
絹川 ● 坂本さんが作品を造るときに気をつけていることを教えて下さい。
坂本 ● 素朴で飾り気がなく、野性味があるところも珠洲焼きの魅力なので、その荒々しさを生かせるものはなるべく生かすようにしています。食器類はあまり荒くないほうがいいので、食器類を造るときは、粘土を生成するときに粒子を細かい網で濾してなるべく細かい土で造りやすいように気をつけています。使う人の気持ちを考えながら、個性と味わいの感じられる作品を心がけています。
絹川 ● 坂本さんが珠洲焼をしていて、一番嬉しいと感じるとき、また辛いと感じることは何でしょうか?
坂本 ● 嬉しいときは、窯から出てきた作品が自分の思うようにできたときです。自分の作品が人に褒められたときは嬉しいです。反対に、自分で造っていて面白くないときや、作品が思い通りに行かないときは辛いです。気合を入れて造ったものが、窯を開けてみたら割れていたりするのは辛いですね。ある程度上達したかなと思うと、壁に突き当り、思うように造れなくなります。それを越えてもまたしばらくすると壁に当たり、この繰り返しだと思います。行き詰まったときは一体どうしたらいいんだろう?と思いますが、ひたすらあがいて解消するしかありません。
絹川 ● では、最後になりましたが、今後の抱負をお聞かせ下さい。
坂本 ● 一言で言えば、いい作品を作りたいです。珠洲焼は絵のない焼き締めの作品ですから、人間性が現れる焼き物だと思います。伝統工芸の世界は40〜50歳は鼻たれ小僧と言われる世界なので、自分の味が出せるのはこれからかなぁと思います。父が珠洲焼を始めたのは50代で、私はまだ45歳なので、諦めずに色々な手法に挑戦していきたいです。
絹川 ● 坂本さんには、珠洲焼きの素晴らしさを、ぜひ多くの方に伝えていって頂きたいと思います。これからもご活躍をご祈念しております。 本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。

「筒花入」

「面取り花入」
